ドイツのパンとパン屋さん
ドイツはパンが好きな人にはまさに天国。「アルプスの少女ハイジ」が食べていた白いパンから、黒々としたコクのあるパンまで、ありとあらゆるパンを食べることができます。日本ではそうでもなかったけれど、ドイツに来てからパンが好きになったという人も少なくないのではないでしょうか。今回のテーマは「ドイツのパンとパン屋さん」。ブレッチェンを食べながら、のんびりとお付き合いください。
ドイツのパンいろいろ
ドイツのパンは本当に種類が豊富。パン屋さんに行くと、店頭にいろいろなパンが並んでいるので、どれを注文しようかいつも迷ってしまいます。日本にいた頃は、ドイツパンと言えばどっしりとした重みがあって、モチモチと噛み応えがあるパンを私は思い浮かべていたものです。もちろんそういうパンもありますが、それだけではありません。まずは代表的なドイツのパンをいろいろご紹介しましょう。
大きいパン(Brot)
Weizenbrot小麦パン よく食べられている白いパン
Roggenbrot ライ麦パン 薄い茶色がかった生地が目印。独特の酸味があるので最初は食べにくいかもしれないけれど、慣れてくると止められない美味しさです。
Dinkelbrot スペルト小麦のパン 日本ではあまり知られていないけれど、ドイツで栽培されているドイツ小麦を使ったパン
※小麦粉とライ麦粉の使われる割合によって、「Weizenmischbrot(小麦の混じったパン)」などのように名前が変わります。
Vollkornbrot 小麦またはライ麦の全粒粉を使用したパン
Kartoffelbrot じゃがいもパン その名前の通り、茹でたじゃがいもが混ざて作られている。少しもっちりしていてとても美味。
Knäckebrot クネッケブロート クラッカーのように平たいパン。乾いているので保存期間が長い。ライ麦の全粒粉から作られていて、気軽にお弁当などにも持っていきやすい。
Sonnenblumenbrot パンの表面にひまわりの種がまぶしてあるパン。他にも、かぼちゃの種や雑穀がぎっしりくっついたパンもあります。
Pumpernickel プンパーニッケル 黒に近い焦げ茶色が特徴。低温でじっくり蒸して作られるパン。味わいも独特なので好き嫌いがありそうですが、濃厚な独特の風味にはチーズなどがぴったり合います。オープンサンドにしてトッピングをいろいろ考えたら、パーティーなどのオードブルが一品簡単に出来上がりです。
Toastbrot 日本でいうところの食パン。トーストして食べやすく手頃な値段なので、家庭の食卓には欠かせません。
小さいパン(Kleingebäck)
Brötchen ブレッチェン これぞドイツパンの顔。「小さいパン」という名の通り、小さくてころっとした丸い形のパンです。ブレッチェンについては一言では書ききれないので、後でまた詳しく書きますね。。
Brezel ブレーツェル 結び目の形が目印のドイツの伝統的なパン。粗塩がまぶしてあるのが一般的で、ビールのお供にもピッタリです。ミュンヘンのビールの祭典「オクトーバーフェスト」の定番でもあります。塩味がきつめなので、苦手な人はまぶしてある塩を少し取ってから食べるといいかもしれません。
祝祭などにちなんで作られるパン
クリスマスのシュトレン
日本でもすっかりお馴染みになりつつあるドイツ生まれのパン。ドライフルーツやレーズン、ナッツ、ケシの実、アーモンドなどを練り込んで焼いたパンで、表面に粉砂糖が雪のようにたっぷりかかっています。パン屋さんでも買えますが、クリスマスシーズンが来るちょっと前、11月頃になると、おばあちゃんから、ママから受け継がれたレシピで、子どもも一緒になって手作りする家庭も少なくありません。外は秋のどんよりした曇り空、出掛けるのは億劫なので、お家で部屋を暖かくして、のんびり過ごしたいという日にはシュトレン作りはぴったりです。早めに作って味を馴染ませ、アドヴェントの時期になったら、お気に入りの紅茶やコーヒーと一緒に少しずつスライスして食べます。バターの風味たっぷりで、食べ応えもたっぷりです!
カーニバルのベルリーナー
1年中売ってますが、カーニバルのパーティーには欠かせないのがこのパン。中にジャムがたっぷり入って、粉砂糖でコーティングされた甘い甘いパンです。どうやって食べても、口の周りが粉砂糖で白くなってしまうのが玉にきず。
ザンクト・マルティンのヴェックマン
ドイツの秋の風物詩ザンクト・マルティン(St. Martin)の季節になるとパン屋さんの店頭に並ぶのがこのお菓子パン、その名も「ヴェックマン(Weckmann)」。人の形をして白いパイプ(これは食べれません。デコレーションです)をくわえたミルクパンで、特に子どもには大人気。頭から食べようか、足から食べようか、いつも迷ってしまいます。
お菓子パン/おかずパンいろいろ
いわゆるケーキ専門店(Konditorei)とは違うけれど、ケーキも顔負けの甘さとカロリーを誇るお菓子系のパンもたくさん並んでいます。
シナモンロール(Zimtschnecke) スカンジナビア諸国でもともと生まれたといわれるこのパンは、ドイツでも人気です。シナモンと砂糖の相性は本当に抜群です。
ソーセージロール(Wurst Croissant) ドイツときたらソーセージ。大きなフランクフルト・ソーセージが丸ごとパンに入っています。食べ応えがあるので、お腹がすごく空いているときにおすすめです。
いろいろな名前を持つブレッチェン
前述の通り「小さいパン」を意味するブレッチェンですが、ドイツ全国どこでもこの名前で通っているわけではありません。ステップイン旅行保険のオフィスがあるボンの近郊に住む私は、実はかなり長い間ブレッチェン以外の名前があるとは知らなかったんですが、中部~南ドイツ地方では、ブレッチェンではなくてゼンメル(Semmel)という名前で呼ばれることが多くなります。だからもし、ミュンヘンのパン屋さんでブレッチェンを買うなら、「ゼンメルください」と言わないと、店員さんにキョトンとした顔をされるかもしれません(ブレッチェンでも通じるとは思いますが)。
名前だけではなく、ブレッチェンは形やトッピングもいろいろです。私の中では、ブレッチェンといえば楕円形ですが、丸くて上から見ると花の模様のように見えるのが特徴的なカイザース・ブレッチェン(Kaisersbrötchen)や、表面がパリっとした焦げ茶色で塩が少しまぶしてあるラウゲンブレッチェン(Laugenbrötchen)、バゲットを小さくした形のバゲット・ブレッチェンなどもあります。またシンプルなもの以外にも、ゴマや雑穀、ひまわりの種、ケシの実などが表面にまぶしてあるブレッチェンもあります。最近では、米粉やコーンミールから作られたグルテンフリーのブレッチェンもナチュラル派の間で人気です。
ドイツ人とパン屋さん
ドイツ人は朝、その日の朝食に食べるブルッチェンをパン屋さんに買いに行く習慣があります。ただ慌ただしい平日はなかなかそんな優雅なことはやってられない家庭も多いので、多くは週末の朝食です。「Sonntagsbrötchen(日曜日のブレッチェン)」という呼び名もあるくらいです。パン屋さんの朝が早いのは、古今東西どこでも同じ。ドイツでは日曜日は基本的にお店はお休みですが、パン屋さんは例外です。日曜日の朝、焼きたてのブレッチェンを家族の分買いに行く(なぜか大抵は)パパたちを街角でよく見かけます。
ブレッチェンにはさむもの、つけるもの
ドイツ人は、パンだけを食べることはまずありません。ブレッチェンにも必ず何かを付けたりのせたりして食べます。私は何もつけずにパンの風味を楽しみながらパンだけを食べるのが好きなんですが(それがおかしい?)、そうすると回りのドイツ人からはいつもとてもびっくりされます。
そこで、ドイツ人のブレッチェンの食べ方をいろいろチェックしてみました。まずはブレッチェンを器用に真ん中で上下に二つに切って(縦には切りません)、その間に好きなものを挟んだりぬったりして食べます。パンを少しずつちぎって、ちょこちょことジャムを塗りながら食べてるドイツ人は見たことがありません。必ずといっていいほどみんながみんな、ブレッチェンは横切りにします。ドイツに来て間もない頃、それが私の中ではちょっとした驚きでした。
パンのお供は、ハムやサラミ類、バター、マーガリン、ジャム、その他いろいろなペーストが定番ですが、中でも子ども(大人も)に圧倒的な人気を誇るのが「ヌテラ(nutella)」。ヘーゼルナッツとチョコレート味のペーストで、ドイツではクレープにつけるものの定番ですが、ここでも登場します。むちゃくちゃ甘いですが、ヌテラ好きはそれをパンがすみからすみまでチョコレート色に染まるまで惜しみもなくたっぷり塗って、がぶりと食いつきます。私は日本にいた頃はヌテラの存在を全く知らず、ドイツに来てから知ったんですが、あまりにあちこちでヌテラを見るので、これはドイツのものだとばかり思っていました。(本当はイタリア生まれでした)話がそれましたが、ヌテラはブレッチェンには欠かせません。
今どきのパン屋さん
チェーン展開するパン屋がどんどん増えている昨今。街中や駅構内など、どこもかしこも「Kamps」「Backwerk」といった大型チェーン店の名前ばかりです。昔ながらの個人経営のパン屋さんが減ってきているのは寂しい気もしますが、それも時代の流れでしょうか。時代の流れといえば、ビオのパン屋さんがここ最近続々と市民権を獲得しつつあるのも注目です。グルテンフリーのパン、有機小麦を使ったパン、ヴィーガン向けのパンなど、お値段はちょっと高めですが、こだわり派には人気を集めています。
イートイン・コーナーがあるパン屋
クラシカルなパン屋ならば、店頭でパンを買っておしまいですが、ここ最近、店内の一角にイートイン・コーナーが設けられていて、コーヒーや紅茶などを一緒に注文してそこで買ったパンを食べれるようになっているパン屋さんがとても増えました。パン屋ならレストランのように肩苦しいこともないし、リーズナブルに空腹を満たすこともできます。例えば、週末に友達とブランチをしたい時などにもおすすめです。
セルフサービスのパン屋
ここ数年の間にぐっと数が増えたように思うのがこのタイプのパン屋。店頭に並んだパンの棚から自分でトレイに好きなものを置いてお会計、もしくはトレイじゃなくて直接紙袋にパンを入れてお会計へ。セルフサービスの分、パンの価格もちょっとお安めで、ファストフードっぽくはあるけれど、朝のラッシュ時など、駅構内にあるこの手のパン屋さんは、自分が乗る電車に間に合うように急いでその日の朝食を調達するサラリーマンや学生で一杯です。
【編集後記】
さて、今回のドイツパン特集はいかがでしたでしょうか。最後までご一読いただきありがとうございます。この記事を書く上で、ドイツ人のブレッチェンの食べ方にあらためて注目した私でしたが、ステップインのドイツ人スタッフが一押し(?!)といって進めてくれたブレッチェンの食べ方がとても面白く、そして(騙されたと思って)食べてみたら案外美味しかったので、最後におまけでご紹介します。
「ドイツ人なら誰でも子どもの頃、学校の休憩時間などに食べた(はず)」とそのスタッフが豪語するのは、“チョコレートのキス”という名前のドイツのチョコ菓子「ショコクス(Schokokuss)」を、横切りしたブレッチェンの間に入れる食べ方です。マシュマロのように柔らかい砂糖のクリームが中に詰まったそのチョコを挟んだら、ブレッチェンを上から一気に押さえつけます。するとチョコはぐちゃっとパンの中でつぶれて、チョコクリームのように様変わりです。見た目は正直なところ食欲をそそりませんが、食べてみるとこのクリームの絶妙な甘さがパンにぴったり合います。ぐちゃっとするところが子ども受けするのも納得。大人でも楽しめちゃいます。どうぞお試しあれ。
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